固定残業代とは?
仕組み・計算方法・超過分の支払いと違法になるケースを解説
固定残業代とは、一定時間分の時間外労働などに対する割増賃金を、あらかじめ決めた金額で支払う仕組みです。「みなし残業代」と呼ばれることもあります。
残業が少ない月でも定めた固定残業代を支払う一方、実際の労働に対する割増賃金が固定残業代を上回った場合は、不足する分を追加で支払う必要があります。また、通常の賃金と固定残業代の内訳が不明確だと、固定残業代として認められないおそれがあります。
本記事では、固定残業代の仕組みと計算方法を具体例で説明します。さらに、深夜・休日労働の扱いや、企業が導入・運用するときに確認したいポイントを解説します。
1. 固定残業代とは?仕組みをわかりやすく解説
固定残業代とは、あらかじめ定めた時間分の時間外労働などに対し、毎月決まった金額を支払う仕組みです。基本給とは別に手当として支払う方法と、基本給の中に含めて支払う方法があります。
どちらの方法でも、通常の労働時間に対する賃金と固定残業代を区別できるようにする必要があります。また、固定残業代を支払っていても、実際の労働時間の記録や、必要な割増賃金の計算が不要になるわけではありません。
1-1. 残業が少ない月・多い月の支払い方
たとえば「月20時間分の固定残業代として4万円を支払う」と定めた場合、残業がなかった月や、残業が10時間だった月も、原則として4万円を支払います。
一方、実際の労働に対して支払うべき割増賃金が4万円を上回った月は、その差額を追加で支払います。「20時間分を支払っているから、何時間働いても追加の残業代は不要」という扱いはできません。
| その月の残業 | 固定残業代の扱い |
|---|---|
| 残業なし | 定めた4万円を支払う |
| 10時間 | 定めた4万円を支払う |
| 25時間 | 4万円を支払い、不足する残業代があれば追加で支払う |
※表は、固定残業代が通常の法定時間外労働20時間分を対象とする例です。追加支給額は2章で計算します。
1-2. 「手当型」と「基本給に組み込む型」の違い
固定残業代の支払い方には、主に次の2種類があります。
| 支払い方 | 記載例 |
|---|---|
| 手当型 | 基本給25万6,000円+固定残業手当4万円 |
| 基本給に組み込む型 | 基本給29万6,000円(うち通常の賃金25万6,000円、固定残業代4万円) |
手当型は固定残業代を別の手当として示す方法です。基本給に組み込む型でも、「基本給29万6,000円(固定残業代を含む)」とだけ記載するのではなく、通常の賃金に当たる部分と固定残業代に当たる部分が分かるようにします。
支払い方にかかわらず、固定残業代の金額、何時間分のどの労働を対象とするか、超過分をどう支払うかを明確にしておくことが大切です。
1-3. みなし労働時間制との違い
固定残業代は「みなし残業代」と呼ばれることもあり、基本的には同じ意味で使われます。一方、みなし労働時間制は別の仕組みです。
固定残業代は、一定額の残業代をあらかじめ支払う方法です。みなし労働時間制は、一定の要件のもとで労働時間を算定する方法を指します。名前は似ていますが、残業代の支払い方を定めるものか、労働時間の算定方法を定めるものかが異なります。
関連記事:みなし残業と固定残業の違いとは?みなし労働時間制との違いや残業代の扱いを解説
2. 固定残業代の計算方法【具体例つき】
固定残業代を計算するときは、まず割増賃金の基礎となる1時間あたりの賃金を求めます。次に、固定残業代が対象とする時間数と割増率を使って金額を計算します。
ここでは、通常の賃金が月25万6,000円、1か月平均所定労働時間が160時間、固定残業代の対象が法定時間外労働20時間分という例で説明します。深夜労働・休日労働はなく、計算に含めるほかの手当もないものとします。
2-1. 1時間あたりの賃金を求める
月給制の場合、割増賃金の基礎となる月額を「1か月平均所定労働時間」で割り、1時間あたりの賃金を求めます。
25万6,000円 ÷ 160時間 = 1,600円
この例では、1時間あたりの賃金は1,600円です。固定残業代を基本給に組み込んでいる場合も、固定残業代の部分まで含めて時間単価を計算するわけではありません。
なお、実際の計算では、基本給以外の手当も割増賃金の算定基礎に含まれる場合があります。「基本給だけを160時間で割ればよい」と決めつけず、賃金の内訳を確認してください。
2-2. 固定残業代の金額を計算する
法定労働時間を超える通常の時間外労働には、原則として25%以上の割増率を適用します。この例で20時間分の固定残業代を計算すると、次のとおりです。
1,600円 × 1.25 × 20時間 = 4万円
したがって、通常の賃金25万6,000円に、固定残業代4万円を加えた月額は29万6,000円です。ここでいう「20時間分」は支給額を計算するための時間数であり、毎月20時間の残業をさせてよいという意味ではありません。
2-3. 追加で支払う残業代を計算する
同じ従業員が、その月に25時間の法定時間外労働をした場合を考えます。まず、実際の25時間分に対して必要な割増賃金を計算します。
1,600円 × 1.25 × 25時間 = 5万円
支給済みの固定残業代は4万円なので、差額の1万円を追加で支払います。
必要な割増賃金5万円 − 固定残業代4万円 = 追加支給額1万円
この計算例は、25時間のすべてが同じ割増率の時間外労働である場合です。深夜労働や法定休日労働がある月は、それぞれの割増賃金と、固定残業代がどの労働を対象としているかを確認して計算します。
3. 深夜労働・休日労働は固定残業代に含まれる?
深夜労働や休日労働が固定残業代に含まれるかどうかは、その定め方によります。「固定残業代20時間分」とだけ考え、時間外・深夜・休日の労働をすべて同じ扱いにすると、割増賃金の支払い漏れにつながります。
3-1. 対象に含む労働と時間数を確認する
割増賃金の率は、労働の種類によって異なります。
| 労働の種類 | 法律上の割増率 |
|---|---|
| 法定労働時間を超える時間外労働 | 原則25%以上 |
| 22時から翌5時までの深夜労働 | 25%以上 |
| 法定休日の労働 | 35%以上 |
たとえば、固定残業代が「法定時間外労働20時間分」を対象としている場合、その定めだけでは、深夜割増分や法定休日労働分まで含まれるとは読み取れません。反対に、それらを固定残業代の対象に含める場合は、対象となる労働の種類、時間数、金額を明確にする必要があります。
なお、会社の所定休日に働いた場合と、法律上の法定休日に働いた場合では、割増賃金の扱いが異なります。「休日出勤」をすべて35%割増として計算するわけではありません。
3-2. 対象外の労働や不足額には追加支払いが必要
固定残業代が通常の時間外労働だけを対象としている場合、深夜労働や法定休日労働に必要な割増賃金は別に計算します。
また、深夜労働や法定休日労働を固定残業代の対象に含めていても、実際に支払うべき割増賃金の合計が固定残業代を上回れば、差額の支払いが必要です。時間外労働が深夜に及んだ場合は、時間外労働と深夜労働の割増を重ねて計算します。月60時間を超える法定時間外労働にも、通常より高い割増率が適用されます。
何を固定残業代に含めているかを確認したうえで、実際の時間外・深夜・休日労働をそれぞれ集計することが、支払い漏れを防ぐ基本です。
関連記事:残業の割増率とは?25%・35%・50%の違いと残業代の計算方法を解説
4. 固定残業代が違法・無効につながるケース
固定残業代を導入すること自体が違法なわけではありません。ただし、賃金の内訳が分からない場合には、支払った金額を固定残業代として扱えるかが問題になります。また、必要な割増賃金や最低賃金を支払っていなければ、別途、賃金の未払いが生じます。
「固定残業代として認められるか」と「法律上必要な賃金を支払っているか」は分けて確認しましょう。
4-1. 通常の賃金と固定残業代を区別できない
たとえば「月給29万6,000円(固定残業代を含む)」とだけ記載されていても、そのうち通常の賃金がいくらで、固定残業代がいくらなのか分かりません。
通常の賃金と固定残業代を判別できない場合、その支払いが固定残業代として認められず、別途、残業代の支払いを求められるおそれがあります。手当として別に支給している場合も、名前だけで判断されるわけではありません。時間外労働などの対価として支払われていることが分かるよう、労働条件や実際の説明・運用を整えておく必要があります。
4-2. 必要な割増賃金との差額を支払っていない
固定残業代が4万円でも、実際の労働に対する割増賃金が5万円なら、差額の1万円を支払う必要があります。固定残業代を支払っていることだけを理由に追加支給をしなければ、残業代の未払いになります。
確認すべきなのは、単に「固定残業時間を超えたか」だけではありません。深夜・休日労働なども含め、固定残業代の対象となる労働に対して必要な割増賃金額を計算し、支給額と比較します。
4-3. 最低賃金の対象となる賃金が基準を下回っている
月給の総額が高く見えても、その中に固定残業代が多く含まれていると、最低賃金の確認に使う賃金は想像より低い場合があります。最低賃金を確認するとき、時間外・休日労働に対する賃金や、深夜労働の割増部分は計算対象に含めません。
月給制の場合は、固定残業代など対象外の賃金を除き、最低賃金の対象となる月額を1か月平均所定労働時間で割って、適用される最低賃金と比較します。基本給以外にも計算対象となる手当があるため、「基本給だけ」で判断しない点にも注意が必要です。
固定残業代の金額を決める際は、残業代として十分な額かどうかに加え、最低賃金の対象となる賃金を時給換算した額が、適用される最低賃金を満たしているかも確認しましょう。
5. 固定残業代のメリット・デメリット【企業・従業員別】
固定残業代には、企業が毎月の人件費の一部を見通しやすく、従業員は残業が少ない月も一定額を受け取れるというメリットがあります。一方、給与の内訳が分かりにくいと、待遇についての誤解や残業代の支払い漏れにつながります。
| 立場 | メリット | 注意したい点 |
|---|---|---|
| 企業 | 毎月支払う残業代の一部を見通しやすい | 残業が少ない月も定額を支払う。必要な割増賃金が固定残業代を上回れば、差額の支払いも必要 |
| 従業員 | 残業が少ない月も定められた固定残業代を受け取れる | 月給総額だけでは通常の賃金部分が分かりにくく、追加の残業代が正しく支払われているか確認しにくい |
従業員が給与を比較するときは、月給総額だけでなく、その内訳を見ることが大切です。たとえば、次の2社はいずれも表示上の月給が29万6,000円ですが、割増賃金を計算する基礎となる賃金は異なります。
| 月給の内訳 | 割増賃金の計算に使う1時間あたりの賃金 | |
|---|---|---|
| A社 | 基本給29万6,000円。残業代は別途支給 | 1,850円 |
| B社 | 基本給25万6,000円+固定残業代4万円(法定時間外労働20時間分) | 1,600円 |
※いずれも1か月平均所定労働時間を160時間とし、計算に含めるほかの手当がない場合です。
企業も、固定残業代を設ければ残業代の計算が不要になるわけではありません。実際の労働時間を把握し、支払うべき割増賃金との差額を毎月確認する必要があります。
6. 企業が導入・運用するときの確認ポイント
固定残業代を適正に運用するには、導入時に賃金の内訳と対象範囲を明確にし、導入後も実際の労働時間と支払額を確認し続けることが重要です。
6-1. 労働条件通知書や就業規則で内訳・対象時間を明確にする
まず、通常の労働時間に対する賃金と固定残業代を区別できるようにします。あわせて、固定残業代が何時間分のどの労働を対象とするか、不足額が生じた場合にどう支払うかを示しましょう。
2章の計算例なら、次のような記載です。
基本給25万6,000円、固定残業代4万円(法定時間外労働20時間分)。実際の法定時間外労働に対する割増賃金が4万円を上回る場合は、その差額を別途支給する。深夜労働・法定休日労働に対する割増賃金は別途支給する。
深夜労働や法定休日労働も固定残業代に含める場合は、その対象範囲を具体的に定めます。「残業代は月給に含む」という記載だけでは、通常の賃金と固定残業代の内訳を判別できません。厚生労働省も、就業規則または労働条件通知書等で両者を明確にする必要があると説明しています。
6-2. 求人票に基本給・固定残業代・超過分の支払いを明示する
固定残業代を含む賃金で募集する場合、求人票などには次の3点を明示する必要があります。
- 固定残業代を除いた基本給の額
- 固定残業代の計算方法が分かる時間数と金額
- 対象とする時間数を超える時間外労働などには、割増賃金を追加で支払うこと
たとえば、次のように表示すると、求職者が給与の内訳を確認できます。
| 表示例 | 内容 |
|---|---|
| 明確な表示 | 月給29万6,000円(基本給25万6,000円、固定残業代4万円〔法定時間外労働20時間分〕)。20時間を超える法定時間外労働、深夜労働・法定休日労働の割増賃金は別途支給 |
| 内訳が分からない表示 | 月給29万6,000円(固定残業代を含む) |
求人票と、入社時に明示する労働条件の内容も一致させましょう。
6-3. 実際の労働時間を把握し、毎月の不足額を確認する
固定残業代を支払っていても、従業員の実際の労働時間を把握する必要があります。始業・終業時刻を記録し、法定時間外労働、深夜労働、法定休日労働を区分して集計しましょう。
毎月、実際の労働に対して必要な割増賃金を計算し、固定残業代の対象範囲と照らし合わせます。不足する金額があれば追加で支払います。固定残業時間に達していなくても、対象外の深夜労働や法定休日労働が発生していれば、別途支払いが必要になる場合があります。
6-4. 36協定と時間外労働の上限を確認する
固定残業代の対象として時間数を定めても、その時間まで自由に残業をさせられるわけではありません。法定労働時間を超えて働かせるには36協定の締結・届出が必要で、実際の労働時間は協定の範囲と法令上の上限を守る必要があります。
時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。臨時的な特別の事情があり、特別条項付き36協定を結ぶ場合にも、原則として年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内、月45時間を超えるのは年6か月までといった制限があります。業務によって異なる上限が適用される場合もあります。
固定残業代の有無にかかわらず、実際の時間外労働が上限規制に違反しないよう、月単位・年単位で確認しましょう。
7. 固定残業代に関するよくある質問
Q1. 残業がなかった月も固定残業代を支払う?
はい。毎月定額で支払うと定めた固定残業代は、残業がなかった月も支払います。残業が少なかった月に減額したり、その月に使わなかった時間数を翌月へ繰り越して超過分と相殺したりする扱いは原則としてできません。
Q2. 固定残業時間まで働く義務はある?
固定残業代を受け取っていることだけで、その時間数まで残業する義務は生じません。「20時間分の固定残業代を支払う」という定めは、毎月20時間の残業を義務づけるものではありません。
会社が残業を命じる場合は、労働契約や就業規則の定め、業務上の必要性、36協定などを確認する必要があります。
Q3. 固定残業時間を月45時間超に設定すると違法?
月45時間は、固定残業代の設定時間について一律に定められた上限ではありません。ただし、実際の時間外労働には原則として月45時間・年360時間の上限があり、例外的に超えるには、臨時的な特別の事情と特別条項付き36協定などが必要です。
「固定残業代を50時間分支払うから、毎月50時間残業させてよい」とは考えられません。設定した時間数が、36協定の内容や実際の勤務状況と整合しているか確認しましょう。
Q4. 固定残業代を廃止・減額することはできる?
制度の変更は可能ですが、会社が一方的に賃金を減らせるわけではありません。廃止や減額によって従業員の賃金が下がる場合は、労働条件の不利益変更となります。
変更後の給与総額や通常の賃金、残業代の計算方法を整理し、従業員に説明して合意を得ることが基本です。就業規則の変更によって労働条件を変える場合にも、変更内容の合理性と従業員への周知が求められます。
8. まとめ|固定残業代を導入しても労働時間の管理は必要
固定残業代は、一定時間分の割増賃金を毎月定額で支払う仕組みです。残業が少ない月も定めた金額を支払い、実際の労働に対して必要な割増賃金がその額を上回れば、差額を追加で支払います。
企業は、通常の賃金と固定残業代の内訳や対象範囲を明確にしたうえで、実際の労働時間を記録し、毎月の支払額と36協定の上限を確認しましょう。
FC勤怠の長時間労働管理では、従業員ごとの残業時間を確認でき、設定した残業時間に応じたアラートも利用できます。残業時間の把握や上限管理を効率化したい場合は、機能をご覧ください。
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