みなし残業と固定残業の違いとは?
みなし労働時間制との違いや残業代の扱いを解説
「みなし残業」と「固定残業」は、基本的に同じ制度を指す言葉です。どちらも、あらかじめ一定時間分の残業代を給与に含めて支払う仕組みで、一般的には「固定残業制」と呼ばれます。一方、似た言葉の「みなし労働時間制」は、残業代の支払い方ではなく、実際の労働時間にかかわらず一定時間働いたものとみなす制度であり、まったく別の仕組みです。
固定残業制を導入していても、実際の残業時間が固定残業時間を超えた場合は、超過分の残業代を支払う必要があります。「固定残業代を払っていれば追加の残業代は不要」という運用は、法令違反となるリスクがあります。
本記事では、みなし残業・固定残業・みなし労働時間制の違いを整理し、残業代が発生するケース、違法になりやすい運用、導入時の注意点をわかりやすく解説します。
1. みなし残業と固定残業の違いとは?
「みなし残業」と「固定残業」は、どちらも同じ制度を指す言葉です。一般的には「固定残業制(固定残業代制度)」といい、あらかじめ一定時間分の残業代を固定額として給与に含めて支払う仕組みです。「みなし残業代」「定額残業代」「固定残業手当」など、企業によって呼び方は異なりますが、意味は基本的に同じです。
一方、名前が似ていて最も混同されやすいのが「みなし労働時間制」です。これは残業代の支払い方ではなく、労働時間そのものの算定方法に関する制度です。2つの制度の違いを一言で整理すると、次のようになります。
固定残業制(みなし残業):
残業代の「支払い方」に関する制度
みなし労働時間制:
労働時間の「算定方法」に関する制度
2. 固定残業制とは
固定残業制とは、毎月の残業時間を一定時間とあらかじめ見込んで、その時間分の残業代を固定額で支払う制度です。
【具体例】「基本給25万円、固定残業代5万円(月20時間分)」として支給
実際の残業時間が20時間に満たない月でも、固定残業代(5万円)は全額支払う必要があります。逆に、実際の残業時間が20時間を超えた場合は、超過分の残業代を別途支払う義務があります。
導入の注意点と要件
時間外労働の上限規制(労働基準法第36条)により、原則として月45時間・年360時間を超える残業を設定することはできません。また、制度を適正に導入するには以下の要件を満たす必要があります。
- 固定残業代の金額と、何時間分の残業代にあたるかを就業規則や雇用契約書に明記する
- 固定残業代を除いた基本給、固定残業代の金額と対象時間、固定時間を超えた場合に超過分を別途支払うことを、雇用契約書や労働条件通知書などに明記する
- 固定時間を超えた残業が発生した場合は、超過分を追加で支払う
これらの要件を満たさない場合、固定残業代の支払いが法的に無効と判断され、未払い残業代のトラブルに発展するリスクがあります。
3. みなし労働時間制とは
みなし労働時間制とは、実際の労働時間を正確に把握することが難しい業務に対して、「あらかじめ定めた時間を労働したもの」と扱う制度です(労働基準法第38条の2〜4)。主に次の3種類があります。
事業場外みなし労働時間制(労基法第38条の2)
営業職や取材記者など、社外で働くため使用者が労働時間を管理しにくい業務に適用されます。ただし、携帯電話で随時連絡が取れる状態にある場合や、訪問先・スケジュールを具体的に指示されている場合は適用できません。
参考:労働基準監督署|事業場外労働のみなし労働時間の対象となる業務
専門業務型裁量労働制(労基法第38条の3)
研究開発・システムエンジニア・デザイナーなど業務の進め方を労働者の裁量に委ねる必要がある一定の専門業務に適用される制度です(労使協定の締結と届出が必要です)。
企画業務型裁量労働制(労基法第38条の4)
事業の企画・立案・調査・分析業務に従事する労働者に適用される制度で、労使委員会の決議と届出が必要です。専門業務型よりも導入要件が厳しく設定されています。
「残業代をゼロにできる制度」ではない
みなし労働時間制であっても、みなし労働時間が法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える場合は時間外労働となり、割増賃金の支払いが必要です。また、深夜労働や休日労働が発生した場合も、別途割増賃金を支払う義務があります。「残業代を一切払わなくてよい」という免罪符ではない点に注意が必要です。
4. 【比較表】みなし残業・固定残業・みなし労働時間制の違い
ここまで解説したように、「みなし残業」と「固定残業」は基本的に同じ意味で使われる言葉です。一方、「みなし労働時間制」は、残業代の支払い方ではなく、労働時間の算定方法に関する制度です。それぞれの違いを整理すると、次のようになります。
| 項目 | みなし残業・固定残業 | みなし労働時間制 |
|---|---|---|
| 制度の性質 | 残業代の「支払い方」に関する制度 | 労働時間の「算定方法」に関する制度 |
| 何を定めるか | 一定時間分の残業代を固定額で支払う | 一定時間働いたものとみなす |
| 主な目的 | 残業代の計算・管理をしやすくする | 労働時間の算定が難しい業務に対応する |
| 対象者・業務 | 固定残業代を設定する従業員 | 事業場外労働や裁量労働など、限定された業務 |
| 超過分の扱い | 固定時間を超えた分は追加支払いが必要 | みなし時間が法定時間を超える場合などは割増賃金が必要 |
| 深夜・休日労働 | 別途割増賃金の支払いが必要 | 深夜・休日労働が発生した場合は別途支払いが必要 |
| 勤怠管理 | 実労働時間の把握が必須 | 健康管理や深夜・休日労働の把握のため必須 |
どちらの制度も「残業代を払わなくてよい」制度ではありません。また、固定残業制とみなし労働時間制は制度の目的が異なるため、同じものとして扱わないよう注意が必要です。
5. 固定残業制でも残業代が発生するケース
固定残業制を導入していても、追加の残業代や割増賃金が不要になるわけではありません。固定残業代は、あくまで一定時間分の残業代をあらかじめ支払う仕組みです。次のような場合は、別途支払いが必要になります。
5-1. 固定残業時間を超えて働いた場合
実際の残業時間が固定残業時間を超えた場合は、超過分の残業代を別途支払う必要があります。たとえば、月20時間分の固定残業代を支給している従業員が月25時間残業した場合、超過した5時間分の残業代が追加で必要です。固定残業代を支払っていても、固定時間を超えた分まで含まれるわけではありません。
5-2. 深夜労働が発生した場合
午後10時から午前5時までに労働した場合は、深夜労働として25%以上の割増賃金が必要です。固定残業代の中に深夜労働分の割増賃金が明確に含まれていない場合は、別途支払う必要があります。また、時間外労働が深夜に及んだ場合は、時間外割増と深夜割増を合わせて計算します。
5-3. 法定休日労働が発生した場合
法定休日に労働した場合は、35%以上の休日割増賃金が必要です。固定残業代が通常の時間外労働のみを対象としている場合、法定休日労働分は別途支払う必要があります。法定休日労働分を固定残業代に含める場合でも、対象時間や金額を明確にしておくことが重要です。
5-4. 固定残業代を除く賃金が最低賃金を下回る場合
固定残業制では、給与総額だけでなく、固定残業代を除いた賃金が最低賃金を下回っていないか確認する必要があります。給与総額が高く見えても、その中に多額の固定残業代が含まれている場合、基本給部分が最低賃金を下回る可能性があります。固定残業代を設定する際は、基本給と固定残業代を分けて確認しましょう。
6. 固定残業制が違法になりやすいケース
固定残業制そのものが違法というわけではありません。ただし、金額や時間数の明示が不十分だったり、超過分を支払っていなかったりすると、固定残業代として認められず、未払い残業代が発生するリスクがあります。
6-1. 基本給と固定残業代の区別があいまい
固定残業制では、基本給と固定残業代を明確に区分する必要があります。たとえば「月給30万円」とだけ記載され、基本給がいくらで固定残業代がいくらなのか分からない場合、固定残業代として認められない可能性があります。
6-2. 何時間分の残業代か明記されていない
固定残業代の金額だけでなく、何時間分の残業代にあたるのかも明記する必要があります。「固定残業代5万円」とだけ記載されていても、対象時間が分からなければ、超過分の計算ができません。就業規則や雇用契約書、労働条件通知書などに、金額と時間数を明確に記載しましょう。
6-3. 超過分の残業代を支払っていない
固定残業時間を超えたにもかかわらず、超過分の残業代を支払っていない場合は、未払い残業代が発生します。「固定残業代を払っているから追加支払いは不要」という運用は認められません。固定残業制を導入している場合でも、実際の残業時間を正確に把握する必要があります。
6-4. 固定残業時間を長く設定しすぎている
固定残業時間を過度に長く設定すると、長時間労働を前提とした制度になりやすくなります。時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。固定残業制を導入する場合も、この上限を踏まえ、長時間労働を助長しない設計にすることが重要です。
6-5. 就業規則や雇用契約書に記載がない
固定残業制を導入する場合は、固定残業代の金額、対象となる時間数、超過分を別途支払うことを就業規則や雇用契約書、労働条件通知書などに明記しておく必要があります。記載が不十分なまま運用すると、従業員との認識にズレが生じ、未払い残業代のトラブルにつながるおそれがあります。
7. 固定残業制を導入・運用する際の注意点
固定残業制を導入する場合は、制度を作るだけでなく、実際の労働時間を正しく把握し、超過分を確実に支払える体制を整えることが重要です。ここでは、導入・運用時に確認しておきたいポイントを解説します。
7-1. 固定残業代の金額・時間数・超過分の支払いルールを明確にする
固定残業制では、固定残業代の金額と、それが何時間分の残業代にあたるのかを明確にする必要があります。たとえば、「固定残業代5万円」とだけ記載するのではなく、「月20時間分の固定残業代として5万円を支給する」といったように、金額と時間数をセットで示すことが重要です。また、固定残業時間を超えた残業が発生した場合は、超過分の残業代を別途支払う必要があるため、その旨も就業規則や雇用契約書、労働条件通知書などに明記しておきましょう。
7-2. 実労働時間を正確に把握する
固定残業制を導入していても、勤怠管理は必要です。実際の残業時間を把握できていなければ、固定残業時間を超えたかどうかを判断できません。また、深夜労働や休日労働が発生した場合、固定残業代とは別に割増賃金の計算が必要になることもあります。固定残業制は、残業時間の管理を不要にする制度ではありません。日々の打刻、残業時間、深夜・休日労働を正確に集計できる仕組みを整えておくことが大切です。
7-3. 36協定の上限時間を超えないよう管理する
固定残業時間を設定していても、時間外労働の上限規制を超えてよいわけではありません。時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。固定残業制を導入する場合も、この上限を踏まえ、長時間労働を前提としない制度設計にする必要があります。また、固定残業時間の範囲内であっても、実際の労働時間が長くなりすぎている場合は注意が必要です。残業時間を定期的に確認し、長時間労働を防ぐ運用を行いましょう。
7-4. 従業員に制度内容を分かりやすく説明する
固定残業制は、給与や残業代に直結する制度です。そのため、従業員が制度内容を理解できるよう、採用時や労働条件の変更時に丁寧に説明することが重要です。特に、固定残業代の金額、対象となる時間数、超過分の支払い、深夜・休日労働の扱いは、誤解が生じやすいポイントです。書面への記載だけでなく、従業員が納得できるように説明しておくことで、労務トラブルの予防につながります。
8. よくある質問
Q1. みなし残業と固定残業は同じですか?
みなし残業と固定残業は、基本的に同じ意味で使われることが多い言葉です。どちらも、あらかじめ一定時間分の残業代を給与に含めて支払う仕組みを指します。ただし、「みなし労働時間制」は別の制度です。みなし残業・固定残業は残業代の支払い方に関する制度であり、みなし労働時間制は労働時間の算定方法に関する制度です。
Q2. 固定残業代を払っていれば、追加の残業代は不要ですか?
不要ではありません。実際の残業時間が固定残業時間を超えた場合は、超過分の残業代を別途支払う必要があります。また、深夜労働や法定休日労働が発生した場合も、固定残業代の対象に含まれていなければ、別途割増賃金が必要です。
Q3. 残業が少ない月は、固定残業代を減額できますか?
原則として減額できません。固定残業代は、一定時間分の残業代としてあらかじめ支払うものです。実際の残業時間が固定残業時間より少ない月でも、契約で定めた固定残業代は支払う必要があります。
Q4. 固定残業代を基本給に含めても問題ありませんか?
基本給と固定残業代の内訳が明確であれば、運用できる場合があります。ただし、「月給30万円に固定残業代を含む」とだけ記載されているように、基本給と固定残業代の区別があいまいな場合は、固定残業代として認められないリスクがあります。固定残業代の金額、対象時間数、超過分を別途支払うことを明確にしておく必要があります。
Q5. みなし労働時間制なら勤怠管理は不要ですか?
不要ではありません。みなし労働時間制を導入していても、深夜労働や休日労働、健康管理のための労働時間把握は必要です。また、みなし労働時間が法定労働時間を超える場合には、割増賃金の支払いが必要になることもあります。
9. まとめ|みなし残業・固定残業は「残業代の支払い方」、みなし労働時間制は「労働時間の扱い方」
みなし残業・固定残業は、一定時間分の残業代をあらかじめ給与に含めて支払う「残業代の支払い方」に関する制度です。一方、みなし労働時間制は、実際の労働時間にかかわらず一定時間働いたものとみなす「労働時間の算定方法」に関する制度です。
どちらも「残業代を支払わなくてよい制度」ではありません。固定残業制では固定残業時間を超えた分、みなし労働時間制では法定労働時間を超えるみなし時間や深夜・休日労働に対して、割増賃金が必要になる場合があります。
制度を適切に運用するには、内容を明確にしたうえで、実労働時間を正確に把握することが重要です。勤怠管理システムを活用すれば、固定残業時間の超過、深夜・休日労働、36協定の上限時間などを確認しやすくなります。
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